2015年7月24日金曜日

奇妙な音形


バッハ「無伴奏チェロ組曲」にはC資料、D資料と呼ばれる18世紀後半の筆写譜があるが、それらの第1組曲のプレリュードを見ていると、第27小節の後半に奇妙な音形があるのに気付く。

 C資料


 D資料


パリ初版譜(1824年)も同様。


また2000年に出版された、ウィーン原典版(赤い表紙でおなじみ)もこの音形を採用している。おそらくそれ(と新バッハ全集の2番目の楽譜)だけが例外で、通常はアンナ・マグダレーナ・バッハ(ケルナーも同じ)の音形を採用している(2段に分かれたものを合成)。



この増2度を含んだ音形は実に奇異な印象を与え(ぼくには蛇がのたくっているように感じる)、最初見た時はこれはバッハには関係ないと思った。つまりC、D資料の親資料であるG資料を書いた人あたりが勝手に書き換えたのではないかと思ったのである。

しかしバッハ研究家の富田庸さんによると、これは平均律クラヴィーア曲集について書かれたものだが、

「弟子が学習のために必要な場合には、バッハは初期稿に手を加えては貸し、この浄書譜は約20年もの間、弟子には使わせなかった。そういう知られざる史実が弟子の筆写譜に証拠となって存在する。」
http://www.music.qub.ac.uk/~tomita/essay/wtc1j.html

ということで、チェロ組曲の場合も、バッハが一つのヴァリエーションとして、この奇妙な音形を初期稿に書き加えて筆写師に渡した可能性がある。それに何よりC、D資料にせよ、その親資料であるG資料にせよ、きわめて忠実に筆写しようとしていると思われるので、ここだけバッハによらない音形を書くというのもおかしな話である。

ばくはG資料はアンナ・マグダレーナの筆写譜と、ぼくの仮説上のI資料(記事「バッハへの道」の図を参照)の両者を照らし合わせて作られたと考えているが、そのI資料にこの奇妙な音形があったのではないかと想像している。

結局初めて見た時の感想とは違い、現在ではこの音形はおそらくバッハ自身によるものであるとぼくは考えている。たまに弾いてみるとなかなか面白いのである。

皆さんも一度試してみてはいかが?

にほんブログ村 クラシックブログ チェロへ 

0 件のコメント:

コメントを投稿